私自身も「GAP YEAR」経験者です
私は、半年間のGAP YEAR経験者です。
慶応大学に入学した昭和48年4月(1973年)は、「学費値上げ反対運動」を旗印に学園紛争があって、慶応の長い歴史上初めて、入学式が行われず、授業も半年以上、週2回の語学(私はドイツ語と英語)しかありませんでした。4・5月は説明会が最初1回あって、授業は一切なかったと記憶しています。大阪の府立高校から勇んで上京したのにこのありさまで、18歳で世の中を何も知らない私は、不安一杯で大学での居場所が見つけられず、どう毎日過ごしていいのか、わからなくなりました。
「正規の教育・訓練から離れて時間を過ごすこと」がGAPの本来の意味ですから、自発的でなく、強制されたGAP体験者だったと言えます。悪いことに大学合格後、大学寄宿舎入寮のための筆記と面接試験があり、高校の卒業式にも出席できず、大切な気持ちの区切りや節目が形成できませんでした。想定していないことが続き、今でいう軽い五月病だったかもしれません。落ち込み悩んだ末、いつまでもぶらぶらしていても仕方ないので、何か新しいことをと、とにかく都内の名画座をはしごして古い映画を徹底的に鑑賞しました。
社会との接点としては、民間ユネスコでボランティアに従事し、韓国に数週間ホームステイも経験し、38度線の板門店にも行き、韓国人がその国境に行けないことにショックを受けました。後はやることがないので、ひたすらアルバイトに精を出しました。家庭教師や塾の講師はもとより、変わったところでは、キャバレーのエレベーターボーイ、工場のバルブ開閉(大きな工場内で、決められた時間に、決められたバルブを開閉する仕事)、競輪場のセキュリティ、道路工事、百貨店の閉店後の徹夜での模様替え作業を経験しました。
そこで、休憩時間や昼休みに、社会人やアルバイト仲間にそれぞれのふるさとの話を聞いて、各地の特徴を知って、まだ見ぬ日本に思いをはせ、視野が広がった感じがし、いろんな事象に、好奇心も駆り立てられました。ですから、大学4年間に、北海道と沖縄を除いて、各府県を最低一泊以上しました。その旅での数々の出会いが、「人間臭さと情報」を扱うメディアに就職したくなったきっかけでした。
今では授業のことはほとんど失念し、記憶にありませんが、そんな社会体験は今でも鮮明に覚えていています。仕事で長らくマーケッターだったわけですが、GAP YEAR時代の経験が仕事で一番必要な資質であった日常の生活者の断面を想像する力になったと確信しています。
ギャップイヤー制度は、国内外での3ヶ月以上の
「ボランティア・インターンシップ・課外留学」等で、
いわば“人材育成プログラム”です。
「ギャップイヤー」は、もともと大学就学前後の1年をめどに、正規教育から離れてテーマを持って「ボランティア・インターン・国内外留学」等で過ごす英国で生まれた社会慣行でした。
英国の学生の1割以上が体験し、その後の大学生活ではバーンアウト(五月病)や中退が少なく、また高い目的意識をもって研究生活を謳歌し、就業力もつくことが知られています。それは、教育心理学の先進的学術研究でも証明されるようになってきました。先行する英国・豪州・イスラエルだけでなく、米国ではハーバード大(10年前比で33%増)やMITでも推奨するため、「寄り道」(ギャップ)をする参加者が顕著に増加してきました。名門プリンストン大学やノースキャロライナ大学チャペルヒル校をはじめ、推奨するだけでなく、制度として導入する大学も増えて参りました。
2006~07年の第1次安倍内閣での教育再生会議で「秋入学と半年ギャップイヤー」は提案されましたが、大学での導入は1桁止まりで、事実上頓挫したわけですが、2013年10月に文科省内に「学事暦の多様化とギャップタームに関する検討会議」が誕生しました。東大総長をはじめ、5大学の学長や経団連等の経済団体、そしてギャップイヤー・ジャパン等の民間セクターの代表者も加わり、産官学民各セクターの15名の代表者でその導入推進の必要性が確認されました。これからの大学は、縦糸の「教育・修学の場」にプラスして、横糸として国内外での就労(インターン)・社会体験(ボランティア・国内外留学)を紡ぎ、キャリアが非連続化する中、社会修行の修羅場をくぐったタフな大学生を社会に送り出すことが待望され、2015年度の文科省の採択事業で、東大・国際教養大以外に新たな10を超える大学に「ギャップイヤー制度」が誕生しました。また、大学の制度に関わらず、親や教員の庇護下であるcomfort zone(ぬるま湯)から抜け出し、国内外で本格的 に修行して、個としてしなやかで成熟した”おとな”になることを希求している学生が確実に増えてきました。
ギャップイヤーは、今の日本に必要不可欠な「グローバル人材」と「社会的課題解決型人材」を生み出します。今こそ、高等教育の競争力低下と大学の人材育成システムの脆弱性が叫ばれる中、国内外の「インターン・ボランティア・課外留学」の”人材育成統合プログラム”といえる「ギャップイヤー」 制度を各大学に適した形で導入し、社会慣行化してレジリエンス力(ヤナギのようにしなやかで決して折れない強さ)のある学生の創出を願います。
ギャップイヤー・ジャパンは「民」として、高等教育機関を始め「産官学セクター」に働きかけ、大学就学前後にこだわらない「日本版ギャップイヤー(Jギャップ)」制度の導入・浸透を行うことで、日本の明日を担う"人財"の国際競争力向上とダイバーシティ推進を図り、関連団体との連携と協働による新たなソーシャル・イノベーションの創出とその支援を行います。
これまで使命感と目的を持って「海外ボランティアで1年休学」しても、留年・空白期間・海外逃亡といったプラスイメージでない言葉しか表現がありませんでした。
しかし、日本社会においても、ギャップイヤーという 言葉と概念の浸透で、ポジティブな印象になり、明らかに様相は変わってきました。
最後になりますが、浸透する過程で、引きこもりや非行も長い人生にあっては、「GAPYEARだったね」とポジティブに自分を勇気づける、意味づけられる「魔法の言葉」として、共通概念に成長させたいともくろんでおります。多様な価値観を生む、ギャップイヤーという 言葉を日常で使うことで、少しずつでも、若者がチャレンジしやすい環境を創り、社会を変えていきましょう!